これからのエンジニアの働き方を「移住×キャリア」で考える

目次
はじめに
新型コロナウイルス感染症に端を発した「働き方改革」に伴い、リモートワーク、副業・兼業、フリーランスなどこれまでにない新しい働き方が次々と生まれています。
ITエンジニアは技術力とIT環境があれば様々な仕事ができる職種であることから、通勤のために都心部に住む必然性は薄れつつあります。
その結果、地元に帰るための移住や、配偶者と生活するための移住だけでなく、住みたい場所に住むための移住(Iターン)なども増えており、ITエンジニアにとって、「どこで」「何をするか」の選択肢は大きく広がったと言えます。
このような動向の中、改めて「自分らしい働き方とは何か」を考えた方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ITエンジニアが「自分らしく働く」ための考え方を紹介いたします。今回は、考えるポイントとして挙げられやすい「移住」に焦点を当てて詳しく解説していきます。
地方移住の実態
まずは、ITエンジニアに限らず、地方移住の実態について見ていきます。
株式会社パーソル総合研究所が2021年に実施した「地方移住に関する実態調査」の結果を参考にしながら、地方移住の実態を紹介します。
一言で移住といっても、様々な移住形態があります。同調査では、代表的な移住形態(以下、移住タイプ)を5つの型に分類して分析を行っています。なお、同調査において会社都合の転勤・帯同は除外されています。
【移住タイプ】
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- Uターン型移住
- Jターン型移住
- Iターン型移住
- 配偶者地縁型移住
- 他拠点居住型移住
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出典:株式会社パーソル総合研究所「地方移住に関する実態調査」
移住経験者の仕事と給与の変化
同調査によれば、移住経験者の半数以上は年収に大きな変化が無く、転職せずに移住をした方が過半数を超えていると報告されています。
移住経験者のうち最も多い移住タイプは、「Iターン型(38.6%)」であり、次いで、「Uターン型(20.2%)」が多いようです。
出典:株式会社パーソル総合研究所「地方移住に関する実態調査」
また、移住に際して転職が発生していない方は全体の53.4%を占めているという結果が得られています。冒頭で紹介した通り、働き方の選択肢が増える中で、移住は仕事に必ずしも影響を与えるわけでないことが示唆されます。更に、仕事内容の変化に着目すると、仕事内容が変わらずに移住をした方は全体の62.3%を占めており、今の仕事や経験を活かして移住をすることがマジョリティであることも示唆されます。
出典:株式会社パーソル総合研究所「地方移住に関する実態調査」
移住時の年収増減については、20代から60代のどの年代も半数以上の人が年収に変化がなかったと報告されています。20代や30代では、移住の結果増収となった割合が多く、50代以降では減収割合が増加する傾向が確認されています。
出典:株式会社パーソル総合研究所「地方移住に関する実態調査」
以上から、現在の移住のトレンドは「故郷とは関係のない地方で、仕事も給与も大きく変えることなく行う」ことと言えます。同調査は会社都合の転勤・帯同は除外していることから、会社都合の転勤と同じ感覚で移住を実現している方が多いことがわかります。
移住意向者の実態
地方圏への移住意向がある就労者(移住意向者)に対して調査を行ったところ、検討している移住タイプは「Iターン型(56.7%)」が最も多く、次いで、「多拠点居住型(40.1%)」という結果が得られています。
出典:株式会社パーソル総合研究所「地方移住に関する実態調査」
また、いつまでの移住を計画(検討)しているかを調査したところ、5年以内に移住を計画している人の在宅勤務可能率は54.6%と高く、テレワークや遠隔地居住が可能な人ほど、移住を具体的に検討する傾向があることが確認されています。
出典:株式会社パーソル総合研究所「地方移住に関する実態調査」
しかしながら、移住意向者の51.3%は移住に対して不安を抱えており、移住に踏み切れないと回答しています。特に、年収減少に対して懸念を示す方が多く、20代では46.7%は5%以内の年収減額であっても「考えられない」と回答しています。
更に、移住意向者が移住を検討する際に重視するポイントは「地域での日常的な買い物などで不便がない(76.4%)、「地域の医療体制が整っている(75.0%)」が上位となっています。その他にも、「街並みの雰囲気が自分の好みに合っている」「穏やかな暮らしを実現することが出来る」といった主観的な期待感も重視される傾向があると報告されています。
出典:株式会社パーソル総合研究所「地方移住に関する実態調査」
以上から、移住を検討する方は、ある程度移住に対して実現しうる環境に身を置いており、だからこそ生活上必要な具体的条件(都市・生活基盤の担保)だけでなく、移住候補地に対してポジティブな印象や期待感が抱けるといった情緒的な側面も重視するなど、より良い環境を得るための選択をしようと考えていることが示唆されます。
移住でITエンジニアが得られるメリット
では、移住を通してITエンジニアはどのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは移住のメリットを2つ紹介します。
- 住居の価格や広さ
- 趣味などのプライベートが充実する
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住居の価格や広さ
1つ目は住居の価格や広さです。
日本は首都圏に人口が集中しています。コロナ禍により一時的に下降したものの、首都圏に置ける2013年の坪単価平均は95万4499円/坪であるのに対し2023年現在では138万0734円/坪に上り、10年で約40万円も高騰しています(参考:株式会社Land Price Japan「土地代データ」)。首都圏に住んでいる方にとって、地方に移住することで、同じ費用でより広い住居を手に入れることが可能です。仕事部屋がリビングの隣にあり、プライベートとの線引きが難しかった方も、一軒家を購入して仕事部屋を2階にするなど、大きく住環境を変えることも可能です。更に、家賃が浮いた分は貯蓄したり、家の設備に投資することができることもメリットと言えます。一部、宮古島など人口が極めて少ないエリアでは、空き住居を探すことそのものが難しい場合もあり、タイミングによっては首都圏と同水準の家賃が必要になるケースもありますが、多くの場合は住居面で大きなメリットが得られます。
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趣味などのプライベートが充実する
2つ目は、趣味などのプライベートが充実することです。
特にキャンプや山登り、サーフィン、サバイバルゲームなどアウトドアな趣味を持っている場合、首都圏では気軽に趣味を楽しむことは困難と言えます。大抵の場合、休日に長距離を移動して楽しむことがほとんどになるため、時間だけでなく交通費も掛かってしまいます。これらは移住することで大きく改善する可能性があります。
サーフィンが趣味であれば、海のそばに移住することで、仕事がある日でも毎日サーフィンを楽しむ生活を送ることができます。気分転換のために日中も海に散歩に行ったりサーフボードをメンテナンスできる環境でさえ、作ることができます。
また、ゴルフが趣味であれば、ラウンド代が安くすむことも多く、今まで以上に気軽にゴルフを楽しむことが可能になるでしょう。
移住することで、趣味を生活の一部に取り入れやすくなり、没頭する時間を可能な限り捻出できるため、プライベートが充実したと感じる方も多くなると考えられます。
移住でITエンジニアが覚悟すべきデメリット
一方で、移住にはデメリットもあります。ここでは移住をする際、ITエンジニアが覚悟すべきデメリットを3つ紹介します。
- 賃金水準の低さ
- 生活インフラが十分とは言い難い
- 地元のコミュニティへの参加は避けられない
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賃金水準の低さ
1つ目は賃金水準の低さです。厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によれば、都道府県別の月額賃金は最高額の東京都が37万5500円であるのに対し、最低額の青森県が24万7600円であり、13万円以上も差があることがわかります。
出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」仕事や職場を変えない転職が現在の移住のトレンドとはいえ、賃金の水準は大きく異なることを念頭に置いておかなければ希望する生活が送れない可能性があります。
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生活インフラが十分とは言い難い
2つ目は生活インフラが十分とは言い難い可能性があるということです。首都圏や地方の政令指定都市、中核市であれば大きな問題になることは少ないものの、地方に行くほど生活インフラの充実度は下がります。
メガバンクのATMは絶対数が少なく、夜遅くまで営業している商業施設や飲食店も少なくなります。移動においては車が必需品であり、自動車免許を持たなければ不自由な生活を余儀なくされる恐れもあります。
更に、学校教育の現場でICTの導入が進んでいるとはいえ、現時点では地域による教育格差があることは否めません。子育て世代にとっては、教育の選択肢が少ないと感じる可能性もあります。
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地元のコミュニティへの参加は避けられない
3つ目は地元のコミュニティへの参加は避けられないことです。自身の故郷や、その近辺に移住するUターンやJターンはその限りではないものの、地元の方とあまり関わらず生活することは賢い選択とは言えません。特にIターンでは、移住者を受け入れる側が協力的な姿勢を持っているからこそ実現することも多く、移住者自身が受け入れる姿勢を持たなければ、十分な支援を得ることができません。移住するからには地元に馴染む努力や、文化の違いを理解して歩み寄る姿勢が求められます。
移住を検討するITエンジニアが押さえておくべきポイント
様々なメリットやデメリットはあるものの、ITエンジニアにとって自分らしく働きやすい時代に変わってきています。しかしながら、自分の理想や自分らしい働き方を重視するあまり、今後のキャリア形成や生活そのものが苦しくなってしまっては本末転倒です。
ここでは、移住を検討するITエンジニアが押さえておくべきポイントを紹介します。
- 自分らしく生きるために必要な要素を洗い出す
- 移住スタイルを決める
- 移住が実現できる環境を探る
- 移住先を徹底的に調査する
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自分らしく生きるために必要な要素を洗い出す
まずは、自分らしく生きるために何が必要なのかを洗い出しましょう。日々業務に追われる中で、改めて「自分らしさ」「自分らしい暮らし」「自分らしいキャリア」を考えることは簡単ではありません。しかしながら、忙しさを理由に考える時間を取らない限り、理想の状況が得られないことも事実です。週末や有給休暇を利用して、この機会に考えることをお勧めします。
自分らしく生きるための要素を考える際は、自分はどんな状態を好むのか、一方でどんな状態を嫌うのかを洗い出し、自分の嗜好性を把握することが有効です。
理想の状態を目指すにあたって、全てが自分の思い通りに進むことは多くはありません。ときには自分にとって嫌なことや苦手なことに挑戦しなければ、望む結果が得られないこともあります。「自分らしく生きる」とは必ずしも「楽をして生きる」ということではありません。「自分が理想とする生活」を実現するために、どのような努力が必要なのかを洗い出し、時には困難なことに挑戦することこそが、「自分らしい働き方」です。
要素を洗い出すことで、自分らしく生きるためにどのような努力が必要になるのかを整理しやすくなります。
【現状の生活】
現在は世田谷区に住みながら渋谷区の会社に毎日通勤している。
週末は湘南に出向き、趣味のサーフィンで日頃のストレスを発散している。【理想とする生活】
仕事がある日であっても、毎日サーフィンを楽しむ生活を送る。
気分転換のために日中も海に散歩に行ったりサーフボードをメンテナンスできる環境にいる。
趣味に対して時間とお金を惜しむような生活を送りたくない。この場合、最大限サーフィンに時間を割けるよう、藤沢や鎌倉あたりに移住することが有力な選択肢になります。また、単にサーフィンに時間を割きたいだけなら、ITエンジニアである必要はありません。ITエンジニアとしての仕事量を減らして、趣味に割く時間を増やすことも選択肢に入ります。
しかしながら、サーフィンに時間と金を投資したいという想いがあるため、一定以上の報酬は必要になります。フルリモートワークを認めてくれるような企業に転職することで実現できるかもしれませんが、見方を変えれば、フルリモートワークであっても価値を発揮できるエンジニアになっていなければならないことも見えてきます。
結果として、やらなければならないことは以下のように整理されます。
・ 湘南近辺に移住する
・ フルリモートワークが可能な職場に勤める
・ 休みをとっても文句を言われないレベルのエンジニアになるこのように、「自分らしい生活」を突き詰めると、「自分らしいキャリア」や「優先順位」が決まっていきます。
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移住スタイルを決める
先に考えた優先順位で、自分の理想とする移住スタイルが見えてきます。先ほど挙げたサーフィンの例では、普段から通っている湘南エリアの移住を検討していますが、サーフィンをすることに重きを置くのであれば、福島県の豊間、宮城県の仙台新港、愛知県の全日本など、サーフィンの名所と呼ばれるエリアに移住することも視野に入ります。
また、サーフィンのためにいちいち移動するのが面倒なだけで、買い物や医療施設の充実を求める場合、海に近い都市である横浜や仙台に住むという選択もできます。
さらに、毎日サーフィンをするよりも、長期休暇でのびのびとサーフィンを楽しみたいのであれば、当該エリアで新たに物件を借りて2拠点生活を送ることも良いでしょう。
移住タイプは様々です。自分に合った移住タイプを選びましょう。
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移住が実現できる環境を探る
冒頭で紹介した「地方移住に関する実態調査」によれば、移住を検討する方は、ある程度移住に対して実現しうる環境に身を置いていることが示唆されています。そのため移住を検討する際は、現職企業の制度や拠点を確認すべきと言えます。現職企業で自分らしい生き方を実現できるのであれば、リスクは低くなりますので、これを使わない手はありません。もし、現職企業で自分らしい生き方が実現できないのであれば、地方に拠点を持つ首都圏が本社の企業を探すことをお勧めします。地方での採用枠があれば、早期に移住することができます。仮に地方採用が無くても、将来的に地方拠点に移住することを前提に転職を検討し、中長期的な移住計画を立てることも手です。
地方に移住してから考えるのはリスクが高いですが、最後の手段としてとっておきましょう。
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移住先を徹底的に調査する
自分らしい生き方の実現には、自分が希望する生活水準を実現できるかということも含まれます。移住経験者の移住時に影響した項目を年代別にまとめると、日常的な買い物などで不便がないことや、都市部へのアクセスが良いことが上位になっています。
出典:株式会社パーソル総合研究所「地方移住に関する実態調査」
このことから、移住先として検討しているエリアが自分の希望に合致するかを徹底的に調べておくことをお勧めします。衣食住や医療機関、教育機関などを調べ、自分の希望をどの程度満たすのか、満たされない場合はどこまで許容できるのかをあらかじめ考えておきましょう。移住者を積極的に受け入れている自治体もあるため、自治体のホームページを見ることで多くの情報を得ることもできます。
まとめ
本コラムでは、ITエンジニアが「自分らしく働く」ための考え方として「移住」に焦点を当てて解説しました。
ITエンジニアとしてキャリアを形成するとき、役割やスキルといった要素を重視して考えると、苦しくなることがあります。自分らしさを失うことなく、自分らしさを大事にした生き方とは何かを考えることが、充実した人生を送るために不可欠です。
新しい生活様式が誕生し、これまで実現できなかった多様な働き方が可能になりました。この機会に、好きな仕事をするだけでなく、好きな場所で働くことに視野を広げてみてはいかがでしょうか。
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